MRJ、生みの苦しみ
MRJ、生みの苦しみ 開発計画は時間との闘い
中日新聞 2015/10/24 朝刊 より
来週に予定していたジェット旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)の飛行計画が五度目の延期となった。旅客機の製造は工業製品の中で最も高い安全性が求められ、新規参入した三菱重工業の子会社、三菱航空機(愛知県豊山町)はこれまで設計変更や工程の見直しを繰り返してきた。プロペラ機「YS11」以来の国産旅客機を復活させる挑戦は土壇場で、再び生みの苦しみを味わうことになった。
二〇〇八年にMRJの開発を始めた三菱航空機が、最初に延期を公表したのは〇九年九月。主翼の素材を複合材からアルミに変更したほか、二カ所の貨物室を後方の一カ所に集約するなど設計を変更した。
その後も、機体の安全性を証明する方法の作成や、合計九十五万点とされる部品の調達で遅れが出た。
こうした見直しで、組み立てや部品の製造を担う下請け会社との調整にも手間取った。三菱重工の大宮英明会長は九月の本紙の取材に「航空機の分野で(下請けをまとめる)棟梁(とうりょう)仕事の経験がなかった」と率直に認めた。
今回の延期理由となるペダルの問題は、県営名古屋空港で続けている走行試験などを通じて判明した。
ただ、数カ月から一年半の延期となった過去四度と比べ、今回は二週間と短い。三菱航空機は二〇一七年四~六月に全日本空輸に初号機を納入する予定も変えていない。
とはいえ、初飛行後には計二千五百時間の飛行試験が本格化する。本物の機体を飛ばすことで、今回のように新たな改善点が出てくる可能性も小さくない。開発スケジュールを守る時間との闘いはますます厳しくなっている。
◆航空会社「準備万全に」、部品メーカー「影響ない」
MRJ二十五機の購入を真っ先に決め、三菱航空機の機体開発を支援している全日本空輸の広報担当者は「延期は残念だが、万全に準備して安全に飛行することが大切。今回は航空機の信頼性が損なわれるケースではない」と話す。二〇一七年四~六月の初号機の納入予定は「変更はないと聞いている」と説明した。
三十二機を購入する日本航空(東京)の担当者も「航空機の開発が難しいことは理解している。苦難を乗り越えて素晴らしい国産飛行機をつくり上げてほしい」と語った。
MRJの主翼部品を製造する旭精機工業(愛知県尾張旭市)の山口央(ひろし)社長は「楽しみが多少延びた。生産面での影響はないと見ている」と冷静に受け止める。
別の下請けメーカーの幹部は「飛行試験でトラブルが発覚すると、開発自体が止まってしまう可能性がある。慎重を期した方が遠回りにならない」と語った。